東京高等裁判所 昭和39年(行ケ)134号 判決 1969年10月29日
原告 木下義夫
被告 特許庁長官
主文
昭和三四年抗告審判第一、三〇六号事件につき、特許庁が昭和三九年八月六日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一双方の求める裁判
原告は、主文同旨の判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二原告の請求の原因
一 原告は、昭和三二年六月一三日特許庁に対し、「ガス洗気壜」の考案につき実用新案登録の出願をしたところ(同年実用新案登録願第二五、九八七号)、昭和三四年二月一四日附で、昭和一七年一〇月一五日河出書房発行化学実験学(第二部)第2巻基本操作篇I第三八六ないし三八七頁(以下引用例甲という。)の記載を引用しての、拒絶理由通知があつたので、昭和三四年四月一日意見書とともに同日附の(全文訂正)説明書を差し出したが、同月一八日右通知による理由をもつて拒絶査定がなされた。そこで原告は、同年五月二二日抗告審判の請求をするとともに(昭和三四年抗告審判第一、三〇六号)、同日附でさらに(全文訂正)説明書を差し出したが、昭和三九年八月六日「本件抗告審判の請求は成り立たない。」との審決がなされ、同審決の謄本は同年九月七日原告に送達された。
二 右審決の理由の要旨は、つぎのとおりである。
本願考案は、昭和三二年六月一三日の出願にかかり、その要旨は、その訂正説明書と図面の記載からみて、その登録請求の範囲に記載されたとおりのガス洗気壜の構造にあるものと認める。
これに対し、原査定の引用した引用例甲には、同じく洗気壜においてガス導入管の先にガラスフイルタを用いたものの説明が図面とともに示されている。
請求人は、原査定は、本願の特定構造による作用効果について正しく理解していないもので、不当である、というけれども、その特定構造である硝子粒子の半凝固多孔球状フイルタを設けることは、本願の説明書と図面の記載の程度では、板状のフイルタとの具体的構造の差異は認められない。すなわち、粒子を結合したものと、板に孔をあけたものとは、単に素材としての材料の相違にすぎないし、また粒子硝子をフイルタ素材とすることは、本出願前より周知のものであるので(必要ならば、大正七年の特許第七〇、一五四号明細書(以下引用例乙という。)参照)その製造方法ならばともかく、その粒子の具体的結合態様が明示されていない以上は、板状のものと単なる素材の相違にすぎないものと認める。
よつて本願の考案は、原査定のとおり旧実用新案法(大正一〇年法律第九七号)第一条の登録要件を具備しないものと認める。
三 しかしながら審決はつぎの理由によつて違法であり、取り消さるべきである。
(一) 本願実用新案の考案の要旨は、原告が抗告審判において提出した前記訂正説明書(昭和三四年五月二二日附)の登録請求の範囲に記載されたとおり「硝子壜(1)の口部(2)に嵌着し一体に形成した導入管(6)並に導出管(8)を有する硝子栓(3)の前記導入管(6)の下端(4)に之と一体に同時に加熱熔着して形成した硝子粒子の半凝固多孔塊状フイルター(5)を設けて成るガス洗気壜の構造」であつて、右のような構造であるから、本願のガス洗気壜は、フイルター(5)の形成と熔着が同時になされ、製作がきわめて容易であるばかりでなく、従来のものにおける成型したガラスフイルターに硝子管を熔着するときのように、ガラスフイルターが破損したり、熔接部が不良となるおそれもなく、きわめて迅速確実に熔着がなされ、さらにフイルター(5)の形状も洗気壜(1)の口径、内部の形状、使用目的等の必要に応じて任意の形状に形成することができる等の作用効果を有するものである。
(二) そして、本願を引用例甲および乙と対比するに、作用効果上つぎのようにすぐれている。
(I) 引用例甲との比較
(1) 製作上の面からみて
(イ) 引用例のものは、フイルターのついた封入管が容器に対し二重壁を形成するように封入され、また容器口と管との擢合わせを必要とするが、右の同心円的な封入や擢合わせの作業は容易でないのに対し、本願のものは、フイルターが導火管の外部に装着されるものであるから、引用例の封入管に比べて導入管を細管にすることができ、したがつて容器に対して同心円的に封入する必要がなく、また擢合わせも栓と容器との簡易な摺合わせですむから、製作が簡単容易である。
(ロ) 引用例のものにあつては、導入管と導出管の封入管に対する装着加工工程とフイルターの封入管に対する装着加工工程とは、おのずから別個に行なわなければならないから、右前者の工程時において後者の工程時に生じた歪みにより封入管がしばしば破損するのみならず、フイルターの封入管に対する溶着不十分なところから破損し、フイルター自身もき裂を生じ易く、封入管の径が大きくなり、すなわち容量が大きいものになるにしたがつてこの傾向が強く、全体としてコスト高となるのを免れないのに対し、本願のものは、導入管の先端にフイルターの形成と熔着が同時に行なわれるもので、導入管は前記のように比較的細管ですむから、導火管の栓に対する装着加工工程において、導入管が破損することなく、フイルターにもき裂を生じない。また引用例のものは容量を大きくしようとすると、いきおい封入管を太くしなければならないが、かような加工は厄介であるのに対し、本願のものは導入管が比較的細管ですむからその欠点がない。
(2) 操作上の面からみて
引用例のものはフイルターが封入管内に装着されるので封入管を細管とすることができず、したがつて容器の大きさの割には、洗滌液が多く入らず、これがため多量の気体を流すと器外に溢れる結果を招くし(引用例第三八七頁第二行目から三行目にかけての「この際注意を要する事は逆流のため往々失敗する点で」の記載参照)、気体の洗滌液に接触する時間も短かく、また、器壁を通じて気体を流すと、フイルターを通過した洗滌液は封入管内に押し上げられるが、フイルター下端の圧力が液を押し上げる圧力をこえたとき初めて通気するものであるから微圧の気体の洗気には使用しえないし、各種の異なつた圧力気体を洗気するものには、不安定な曝気現象を起こすので使用しえないのに対し、本願ののは、導入管を細管とすることができるので、洗滌液を多量にいれることができるから、気体の洗滌液に接触する時間が多いし、多量の気体を流しても導入管と硝子壜との間のスペースが大きいから液が壜外に溢れ出ないし、また各種の異なつた圧力気体を洗気するものに使用しうる。
(II) 引用例乙との比較
(1) 引用例のものは、予めフイルター(多孔質板)を作つて、硝子器に熔着するという二次工程によつて製作されるのに対し、本願のものは、導入管の下端にフイルターの形成と熔着が同時に行なわれる一次工程ですむので製作がきわめて簡単であり、なお引用例のものは、手加工によらなければならないのに対し、本願のものは、耐熱成形具と加熱炉さえあれば作れる。
(2) 引用例のものは、予め成型したフイルター(多孔質板)を硝子器の内部に挿入し、外部から強焔で加熱して熔着するものであるから、フイルターの硝子粒子が硝子器から離れる方向に縮し、熔着が不良となり(引用例第二頁第五行目から六行目にかけての「例ヘバ……避ケザルベカラズ」の記載からわかるように熔着操作は容易でない。)、しかも粒子の収縮差のためフイルターにき裂を生じ易いのに対し、本願のものは、硝子粒子が相互に半熔融化された工程で、導入管の先端を外周から強く締めつけるような状態で縮小しながら塊状フイルターとなるので、熔着のために生じる不良がなく、熔着が迅速確実に行なわれる。
(3) 引用例のものは、フイルターが硝子器内に挿入されるものであるから、フイルターの大きさが硝子器の内径に制限されて、任意形状のフイルターができないのに対し、本願のものは、導入管先端外周に塊状フイルターを形成するものであるから、任意形状のフイルターが成型できるのであつて、目的に応じて球状型、円錐状型、棒状型、試験管型等表面積の大きい任意のものを、また壜口の口径に応じた任意の大きさのものを選択できる。
(三) 以上のとおり本願実用新案は、引用例甲および乙のいずれに対しても、作用効果上顕著な特長を有するものであるから、これら引用例によつてその登録を拒絶せらるべきではない。
(なお、本願のものはその構造上必然的につぎの作用効果をもたらす。すなわち、導入管の先端外周に塊状フイルターが形成されるものであるから、気体が多孔質塊の全面から微細に拡散することができ、また右フイルターはその形成と導入管に対する熔着が同時に行なわれるものであるから、熔け工合が一様で、均一の多孔質のものが形成され、したがつて不均一な泡立ち現象を起こすことがなく、気泡が均一に分散され、濾過能率がよい。しかるに前記各引用例のものは、いずれもフイルターの面積が管によつて制限され、しかも均一な多孔なものができないから、濾過能率が悪い。)
第三被告の答弁
一 請求原因一、二の事実は認めるが、三の主張は争う。
二 原告は、請求原因三において、本願の考案を引用例甲および乙と対比して主張するところがあるが、その主張はつぎのように理由がない。
(一) 引用例甲との対比について。
審決は、右引用例を、単にガラスフイルタの洗気壜が公知であるという程度において引用したものであつて、細部について対比すれば、構造および作用効果が相違するのは、当然である。
要は、原告みずから本願考案の特定構造であると抗告審判請求において主張した「導入管(6)の下端(4)に之と一体に同時に加熱熔着して形成した硝子粒子の半凝固多孔球状フイルター(5)を設けて成る」構造(抗告審判請求書三枚目一四行目から四枚目二行目まで)に、原告が抗告審判請求とともに提出した昭和三四年五月二二日附(全文訂正)説明書に、本願考案の作用効果として記載してある、(い)同一の加熱操作でフイルター(5)の形成と熔着が同時になされ、製作がきわめて容易であり、(ろ)ガラスフイルターが破損するおそれもなければ、熔接部が不良となるおそれもなく、(は)フイルターを任意形状にできる、という効果を勘案して、本願考案と引用例とを対比すべきであり、しかるときは、審決の説示するとおり、本願の説明書と図面の記載の程度では、その特定構造は、単に引用例のガラスフイルターをもつ洗気壜に帰着するものであつて、原告の主張は理由がない。
なお原告は、本願考案においては、導入管を細管とすることができる、という観点からその製作上の特長をいうが、フイルターを塊状とすることが導入管を細管にすることができるという必然性について記載されておらず、したがつて本願考案の特定構造として認められないから、この点の原告の主張は理由がない。
(二) 引用例乙との対比について。
審決は、右引用例を、本願の出願前において硝子粒子を用いたフイルタが公知であるという、フイルタ自体の技術水準の説明としての持参示例としてあげたのであるから、本願考案と対比してその相違点をいうのは、無意味である。
以上のとおりであつて、本願の説明書、図面の記載の程度では、本願に格別考案の存在を認めることはできず、したがつて審決に誤りはない。
第四証拠<省略>
理由
一 請求原因一および二の事実は当事者間に争いがない。
二 (審決における「本願の考案」の認定について)
右の当事者間に争いのない請求原因二の審決理由によつて明らかなように、審決は、本願考案の要旨は、「その訂正説明書」と図面の記載からみて、「その登録請求の範囲」に記載されたとおりのガス洗気壜の構造にあるものと認めて、その登録適格を判断しているのであるが、他方同様に当事者間に争いのない請求原因一の特許庁における手続経過によれば、原告は本件につき、審査の過程において、拒絶理由の通知に対し意見書とともに昭和三四年四月一日附(全文訂正)説明書(以下第一訂正説明書という。)を提出し、さらに抗告審判の請求とともに同年五月二二日附(全文訂正)説明書(以下第二訂正説明書という。)を提出していることが明らかであるから(なおこの二通のほかに原告が訂正説明書を提出したことを認むべき資料はない。)、審決のいう前記の「その訂正説明書」が、右の第一、第二各訂正説明書のいずれを指しているとみるべきか、につき疑いがないではない。しかしこの二通の訂正説明書のいずれにあたるかの点について、これを示唆すべき手続上何ら格段の事情の認められない本件にあつては、審決に直近して提出された右の第二訂正説明書を採用したものとみるのが、通例に則し、審決の解釈として相当というべきである。なお、いずれも成立に争いのない甲第一号証の一、三、甲第四号証の二によれば、出願当初の説明書および右第一、第二各訂正説明書は、その各「登録請求の範囲」の項の記載および「実用新案の説明」の項のうちの構造に関する記載部分において、フイルター(5)の形状、構造に関する部分を除いては実質的に共通しているが、このフイルター(5)の形状、構造について、第二訂正説明書は当初の説明書に同じく「硝子粒子の半凝固多孔塊状フイルター(5)」としているのに対し、第一訂正説明書のみはこれと異なり「硝子粒子の半凝固多孔球状フイルター(5)」としていることが認められるのであつて、この点からすれば、右のように解釈するのが実質・内容的にもより正当であるといえる。もつとも審決理由中には「その(請求人の主張する本願の)特定構造である硝子粒子の半凝固多孔球フイルタを設けることは本願の説明書と図面の記載の程度では、板状のフイルタとの具体的構造の差異は認められない。」と説示した部分があり、この説示は一見本願の特定構造を右第一訂正説明書にとることを容認しているかのごとき、換言すれば審決が第一訂正説明書を採用しているかのような観を与えないでもないが、この点については、前記認定の、認定のような内容による説明書の再度の訂正の事実、しかるに前記甲第一号証の三、甲第四号証の二および成立に争いのない甲第一号証の二によつて明らかなように、右第一、二各訂正説明書にも、前記のように第一訂正説明書と同時に提出された意見書にも、フイルター(5)の塊状であることと球状であることとの、本願の考案上の意味の相違について、直接そのことを摘記して明確にした記載はなにも存しない事実、しかも成立に争いのない甲第四号証の一によつて認められる前記のように第二訂正説明書と同時に提出された抗告審判請求書には、本願の構造につき、右第二訂正説明書におけると異なり、フイルター(5)について、「球状フイルター」として請求理由の記載がなされている事実、そして審決理由における右の説示は、その構文からもまた右甲第四号証の一と対比してもわかるように、抗告審判請求書における請求人(原告)の右請求理由に対応してのものである事実等を彼此対照し、なお本件口頭弁論の全趣旨をあわせて推断するに、審決は、第二訂正説明書を採用したうえで第二訂正説明書における「塊状フイルター」というのは、「球状フイルター」と均等物であると即断し、前記のような説示をしたものとみられるのである。本願において、「塊状フイルター」と「球状フイルター」とが均等物視されるべきものであるかどうか、あるいはまた以上のような手続経過のもとでは、抗告審判において、請求人に釈明を求め「フイルター」の「塊状」と「球状」に関して本願の内容を明確にする手続をとるのが適切ではなかつたのか等の問題はあろうが、それはおのずから別の問題であつて、すでになされた本件審決の解釈としては、審決が「その訂正説明書」と記載して採用している訂正説明書は、前記のように第二訂正説明書を指すものとみるべきであり、この認定に反するようにみえる審決理由の一部における前記表現も、その本旨は前記のように解されるのであつて、この説示の表現の故に審決の解釈として右と異なる見解をとるべき限りでないのは明らかである。
三 (一) (本願実用新案の考案の要旨について)
前記甲第四号証の二によれば、第二訂正説明書には、その登録請求の範囲の項に、原告が請求原因三の(一)で主張するとおりの記載がなされており、また本願実用新案の作用効果として原告の右主張における同様の記載がなされていることがそれぞれ認められる。
そこで本願実用新案の考案の要旨について考案するに、本件に適用すべき旧実用新案法第一条にいわゆる物品の型とは、物品の形状、構造または組合わせ自体をいい、この形状、構造または組合わせを実現するための方法、順序のいかん(製作方法ないし工程)は、同法にいう実用新案の対象となるものではない。しかるに本願実用新案における右の登録請求の範囲の記載中「導入管(6)の下端(4)に之と一体に同時に加熱熔着して形成した硝子粒子の半凝固多孔塊状フイルター(5)を設けて成る」の部分にある「同時に」というのは、字句自体と右説明書の「実用新案の説明」の項の記載からみて、硝子粒子の加熱熔着によるフイルター(5)の形成と、このフイルター(5)の導入管(6)の下端(4)への一体的加熱熔着とが、同一の加熱操作によつてなされることを意味することが明らかであるから、それは単なる工程を示すものであつて、実用新案の内容として保護の対象となりえないものといわなければならない。したがつて本願実用新案における考案の要旨は、右登録請求の範囲の記載と右説明書および図面の記載によつて「硝子壜(1)の口部(2)に嵌着し一体に形成した導入管(6)ならびに導出管(8)を有する硝子栓(3)の前記導入管(6)の下端(4)に、加熱熔着して形成した硝子粒子の半凝固多孔塊状フイルター(5)を、これと一体に加熱熔着して設けてなるガス洗気壜の構造」にあるものと認められる。
(二) (各引用例について)
これに対し、成立に争いのない甲第六号証の一ないし三によれば、引用例甲には、その第41図に、ガラスフイルター附き洗気瓶が「洗気壜として……極めて細い気泡を生ずる様工夫されたガラスフイルター附のものは非常に有効である(第41図)……」との本文説明をもつて示されており、また成立に争いのない甲第七号証によれば、引用例乙には、半熔硝子粒子より成る多孔性体を有する濾過器において、多孔性硝子体を無孔体の硝子器中に熔着したものが記載されていることが、それぞれ認められる(右各引用例がいずれも、本件において旧実用新案法第三条第二号所定の刊行物にあたることは、それぞれ右甲第六号証の三および甲第七号証の記載によつて明らかである。)。
(三) (本願実用新案と各引用例のものとの対比)
そこで本願実用新案と引用例甲記載のものとを比較するに、本願においては、フイルター(5)は、硝子粒子を加熱熔着して形成した半凝固多孔塊状のものであり(硝子粒子の具体的結合態様については、粒子が外接した状態で半凝固接着しているとみるべきは技術上自明である。)、それが導入管(6)の下端(4)に一体に加熱熔着されているのに対し、引用例甲では、フイルターについて、単にガラスフイルターと表現されているだけで、その形状および構造については、明らかにされておらず、またその取付個所および取付手段についても同様明らかでないのであるが、その図示からみて、右の形状および構造については、審決のいうように、板状のものに孔をあけたものとみることができ、また右の取付個所については、常識上内管の底部に取り付けてあると推測するのが相当であるところ、右の取付手段については、これを知るに由なく、したがつて本願と引用例甲に記載してあるものとは、ガラスフイルター自体の形状、構造においても、その硝子管に対する取付手段においても相違するものである。また引用例乙によれば、硝子粒子を熔着した半溶硝子粒子よりなる多孔性体のフイルターが、本願出願時に周知であつたことは認められるにしても、本願におけるように、硝子管の下端に塊状フイルターを一体に熔着したという特定構造については、右引用例には何らの記載もない。
以上のように、本願のガス洗気壜は、硝子粒子を加熱熔着によつて半凝固多孔塊状に形成したフイルター(5)(硝子粒子の具体的結合態様は前記のとおり)を、導入管(6)の下端(4)に一体に加熱熔着したという特定の形状、構造において引用例甲記載のものと著しく相違しており、その故に説明書における前記記載のように、右引用例記載のものに比し製作が容易であり(この製作の容易の点について説明書には、フイルターの形成とその導入管の下端への熔着が同一の加熱操作でなされることによる効果として記載されているが、そのような製作の容易は、本願実用新案そのものの効果とはいえないこと前記説示によつて明らかである。ただ板状のものに孔をあけて形成されたフイルターを、管の底部に過不足なく取り付けた右引用例における構造と、硝子粒子の加熱熔着によつて塊状に形成されたフイルターを、管の下端に加熱熔着した本願の構造とは、フイルターの形成においても、その管への結合においても、後者が前者に比し工作上容易であるのは明らかであつて、説明書の記載とは態様をやや異にするが、この意味での製作の容易も本願の効果とみてよかろう。)、またフイルターの形状が右引用例のものと異なり「塊状」であるため、その範囲内では種々の変化の余地があつて、この限界内で洗気壜の口径、内部の形状、使用目的等の必要に応じて任意、適宜の形状のものにすることができる等の効果を有するものであつて(なお説明書には、本願の効果として、フイルターの導入管下端への熔着に際してのものとして、その他のものが記載されているが、本願そのものの効果といえないこと前同様であり、また原告は、前記認定をこえ説明書に記載のない本願の作用効果をあげるが、採用すべくもないことはいうまでもない。)、かような本願実用新案は、とうてい引用例甲からは、そして引用例乙をあわせても、これらからは、容易に推考できるものとはいえない。
したがつて以上と異なる認定、判断をもつて本願の登録適格を否定した審決は違法であつて、取消しを免れない。
(四) (被告の主張について)
被告の主張が前記認定、判断を左右するに足りないことは、以上の説示によつて明らかである。
四 以上のとおりであつて、審決の取消しを求める原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 古原勇雄 武居二郎 楠賢二)